アレフ・レポート No.02
オクラホマ連邦ビル爆破事件

●1 オクラホマ連邦ビルって何だ?

☆OK牧場の決闘

「おじゃましまーす」

 夏休みのある暑い日、僕は純一の家に行った。父から手紙が届いたので、例のごとく、彼に見せるためだ。

「おー、マサシか。遠慮せんと入ってくれ。オトンもオカンも今、おらんし。それにしても、おまえ、ほんまに暑いカッコしとるな」

 ランニングに短パン、どこかの商店街のうちわであおぎながらの純一。僕のほうはといえば、校則どおり「お出かけのときも制服着用」で、背中は汗だらけ、暑苦しいことおびただしい。

「いやー、クーラーなしですまんな。オトンがケチやさかい、扇風機で堪忍してくれ」
「あ、ああ、いいよ」

 開けっ放しの窓から流れ込む蝉の声がうるさいが、たまにはこういうのもいいだろう。ふと見ると、ビデオテープが並んでいる。

「おい、純一、それって西部劇ばっかりじゃないか?」
「ん? そやけど? どれか見たい?」

 純一が西部劇が好きだとは知らなかった。彼が何か僕のよく知らないビデオをセッティングすると、あの独特のカントリー・ミュージックが流れ始める。

「で、マサシ。今度はどんな手紙が来たん? 見せてぇな」
「あ、ちょっと待ってね」

 父からの航空便を取り出して、純一に手渡す。

「おまえんとこのオトン、今度はどっから手紙送って来たんや……うおー!」
「どうかしたの? そんなにうれしそうな顔をして」
「なんと、あのOK牧場からか!」

 並んだビデオの中に、「OK牧場の決闘」というタイトルの映画がある。そんな映画の舞台から届いていたのか? 僕はもちろん、その中身も読んでいたけれど、そんなことにはちっとも気づかなかった。純一が中身を抜き取って、僕は手紙の封筒だけ取り戻す。

「純一、おまえ、西部劇にはまりすぎ。このOKってのは、オクラホマ州の略だよ」
「なんや、それ。つまらんのー」

 ぶつくさ言いながらも、彼は手紙を読み始めた。しかし、今度ばかりはよくわからないらしい。

「今回の手紙、オレにはようわからんぞ。おまえはわかるんか?」
「いや、僕にも何がなんだかわかんないんだよ」

 手紙はこんなふうに始まっていた。

――将志、それから純一君、そちらでは暑い日が続いていることと思う。

 私は今、オクラホマ・シティにいる。おそらく、日本でも話題になっているだろうが、ちょうどオクラホマ・シティ連邦ビル爆破事件の犯人として、ティモシー・マクヴェイに死刑判決が下りた。これについて調べるために、私はここに来たわけだ。

 どうもアメリカにいる父さんの認識と、日本の一般的感覚はずれているらしい。オクラホマ・シティ連邦ビル爆破事件って、そもそも何なんだろう。アメリカで起こった事件なんて、よほどのことがなければ僕たちは覚えてもいないもんだ。なんかそんな「ビル爆破」事件があったような気もするけれど、えーと、それってオリンピック会場でのことだっけ? いや、あれはアトランタか、って程度の認識しかない。

「マサシ、これ、いくら読んだかて、その爆破事件が何なんかわからへん。ちょっと、調べに行こ! それに、図書館のほうが涼しいやろし」

 即断、即行動が純一の取り柄である。言い終えるときには、すでに彼はお出かけ用に着替え始めていた。


☆オクラホマで起こった恐怖の大事件

 夏休みの図書館で高校生は肩身が狭い。どうしたって、受験勉強用に席を占領する邪魔者扱いだ。でも、今日の僕たちはちゃんと本に用事がある。どこに関係の本があるのかすらわからなかったので、手紙に書いてあることを手がかりに、新聞の縮刷版で調べることにした。

 記事自体はすぐに見つかった。結構、アメリカでは騒がれた事件のようだ。わかったところをまとめてみると、こういうことになる。

 オクラホマ州はアメリカの中部にある州で、州都オクラホマ・シティは1889年の建設。州として認められたのは今世紀に入ってからの1904年で、46番目の州だというから、ずいぶん新しいということになる。テキサスの北、カンザスの南。純一の好きな西部劇の舞台にもなりそうなところだ。オクラホマ・シティから南へは、あのケネディ大統領が暗殺されたダラスへまっすぐつながっている。そこからさらに南に行けば、ウェイコ、つまりFBIと銃撃戦をやってつぶされた宗教団体ブランチ・デヴィディアンの本拠地に至る。

 さて、このオクラホマ・シティで事件が起こったのは、95年4月19日の朝だ。ちょうど日本ではオウム騒動真っ盛りのころ。その中心部にある連邦ビルが事件の舞台となった。

 連邦ビルというのは、州ではなく合衆国(連邦政府)の機関が集まったところだ。日本でいえば「合同庁舎」といったところだろうか。その連邦ビルの前に、「ライダー」と書かれたトラックが止まっていた。ライダーとは大型引っ越しトラックのレンタル会社だ。現地時間で午前9時4分、そのトラックが、突然、大爆発を起こしたのだ。

 9階建ての連邦ビルは、瞬時にして破壊された。強化鉄筋コンクリートのビルが、その前半分を完全に失っていた。もちろん、その中にいた連邦機関職員や一般市民は無差別に吹き飛んでいる。最終的に、死者は168人、負傷者は600人に達した。

 救助活動は、遅々として進まない。オクラホマだけでは手が足りず、西はロサンゼルス、東は東海岸メリーランド州から、つまりアメリカ全土からレスキュー隊が駆けつけた。さらに、300人のFEMA(連邦緊急事態管理庁)なども救援活動に当たった。

 テレビでは、亡くなった幼児の映像がアップにされた。犯人は「子供殺し」として、大々的に非難された。そして、クリントン大統領が激しく語る。
「こいつらは人殺しだ。人殺しは人殺しらしく扱われるだろう」

 この日は、ウェイコで起こったブランチ・デヴィディアン事件からちょうど2周年。ブランチ・デヴィディアンの残党のしわざかともささやかれたが、犯人として逮捕されたのは、ティモシー・マクヴェイとテリー・ニコルスという、「ミシガン・ミリシャ」の一員だった。

 そのマクヴェイは、97年8月14日(米時間)に、単独犯として死刑判決を受けた。しかし、日本ではほとんど、これに関する報道はなされていない。

 これが、連邦ビル爆破事件に関する情報だ。


☆アメリカ合衆国の「連邦」と「州」

「マサシ、えらい事件やのに、日本ではあまり知られてないような気がするなあ」

「そうだね。隠したいことでもあるのかな。でも、この連邦ビルってのがよくわかんないね」

「それはそれほど難しくないことだわ」

 二人でそろって顔を上げると、そこにはいつものように、ブリュンヒルデが無表情で立っていた。

「あんた、また突然現われよるな。で? 連邦だの何だのって、どういうことなん?」

「簡単なことよ。日本では翻訳によってごまかされているけど、アメリカ合衆国を英語でいうと何になるかしら?」

「United States of America」

「そう。アメリカ国家連合とも訳せるわね。ステーツは国だから」

「あれ、ステーツって州じゃなかったっけ」

「そう、アメリカの州は、主権を持った国なのよ。だから、オクラホマ・シティは『州都』と呼ばれるの。そして、州ごとに憲法が存在しているわ。その、独立国家の連合体がアメリカという連邦国家なのよ」

「連邦の邦という字も、クニという意味だね」

「そう。その連邦全体のトップがアメリカ大統領であり、連邦全体の政府が連邦政府というわけ」

「ふーん、ちゅうことは、州単位の組織ではなく、州を超えてアメリカ全体にまたがる組織が連邦機関というわけやな。ほんで、連邦機関のオクラホマ出張所みたいなんが、オクラホマ・シティ連邦ビルちゅうことか」

「そう。そして、アメリカには連邦政府に反感を持つ『愛国者』と呼ばれる人たちがいるの。この事件は、そのことを理解しておかないと、決してその本質は見えてこないわ」

 そう言い残して、彼女はすっと離れていった。

「うーん、いつもながら唐突なやっちゃな。それにしても、アメリカってところもえらい難儀なところに思えてくるな」

「そうだねえ。僕たちが教科書で教わっているのは、ほんとうにきれいごとだけなのかもしれない」

「ということはやで、オレらが学校で習ってないところに真実があるっちゅうことか?」

「そうかもしれない」


 さて、父さんからの手紙は、こんなふうに続いていた。

――ティモシー・マクヴェイに死刑判決が下りたことで、アメリカ市民の半数はほっとしている。しかし、残りの半数は、その判決に不満を持っている。特に問題なのは、マクヴェイとニコルスだけが犯人ではないはずなのに、彼らだけが死刑判決を受け、その背後関係などについてまったく追及されていないことだ。もちろん、その点について疑問に思っている人は多い。どうも、今回の事件もやはり仕組まれたシナリオの一つのようだ。

 ところで、私は「単独犯ではないはず」といった。その証拠が、ここにある。


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