アレフ・レポート No.01
ダボス会議1997
World Economic Foram
Annual Meeting Davos 97


●ダボス会議開かる

 97年1月30日から2月4日にかけて、スイスのダボスにて世界経済フォーラム年次総会が開かれた。通称「ダボス会議」である。

 今回の参加者は、各国首脳、多国籍銀行、中央銀行、大手企業トップなど約2000人に及ぶ。主な参加者を挙げてみよう。

政界
アナン 国連事務総長
ギングリッチ 米下院議長
チェルノムイルジン ロシア首相
チュバイス ロシア大統領府長官
レベジ ロシア前安全保障会議書記
ネタニヤフ イスラエル首相
アラファト パレスチナ自治政府議長
ムバラク エジプト大統領
サンテール 欧州委員会委員長
クワシニエフスキ ポーランド大統領
クラウス チェコ共和国首相
ゴウダ インド首相
金正宇(キム・ジョンウ) 北朝鮮対外経済協力推進委員会委員長
ヘンリー・キッシンジャー
財界
ビル・ゲイツ マイクロソフト会長
アンドリュー・グローブ インテル社長
ヘルムート・マウハー ネスレ社長(大手食品企業)
ジョン・ウェルチ ゼネラル・エレクトリック会長
ジョン・スミス ゼネラル・モーターズ会長
パーシー・バーネビック ABB(アセア・ブラウン・ボベリ)会長
(欧州最大の重電メーカー)
ジョージ・ソロス 米投資ファンド社長
アンドリュー・クロケット 国際決済銀行事務局長
オンノ・ルーディング シティコープ副会長
ハワード・デービス イングランド銀行副総裁
フレッド・バーグステン 国際経済研究所所長
金宇中(キム・ウジュン) 韓国・大宇(テーウ)グループ会長
室伏稔 伊藤忠商事社長兼会長
椎名武雄 日本IBM会長
稲葉興作 日本商工会議所会頭
 こうした錚々たるメンバーが、240に及ぶ分科会に出席し、企業経営から安全保障教育からエイズまでといった広範なテーマを議論するのである。また、公式日程と並行して、数えきれない会食や商談、政治交渉が進み、途上国元首の記者会見が30分刻みで行われた。

 ここで、より重要なのは非公式の私的会議である。そこでは戦略的重要性を持つ政策や問題が話し合われ、この私的会議に招かれるかどうかは、世界の実力者によって「認められているかどうか」を示す政治的指標ともなっているのである。



 ダボス世界経済フォーラムは、スイス人実業家クラウス・シュバーブの提唱の下、1971年に創設された。シュバーブは、ハーバード大学時代ヘンリー・キッシンジャーに影響を受け、ビルダーバーグ・グループの秘密会議にモデルにダボス会議を発足させたという。

 この世界経済フォーラムは会員制であり、ダボス会議はその年の世界情勢を左右する高級エリート会議と言える。まさに、ダボス会議が「サミット・オブ・サミット」または「影のサミット」と呼ばれるゆえんである。


●ネットワーク社会の建設

 今回のテーマは「ネットワーク社会の建設」。毎回グローバリゼーションを謳歌しているダボス会議の真骨頂というところだ。

 今回、参加者間の面談や会食、記者の取材申し入れは、すべて電子メール経由で行われ、会場内の専用端末から入力する人が相次いだ。ここでは既に、英語とコンピューターネットワークが共通の情報伝達手段となり、21世紀のネットワーク化された社会を連想させた。まさにバベルの塔の時代よろしく、神に逆らう世界共通言語が確立されたという感じだ。

 企業のネットワーク化、グローバル化は、国家にも重大な影響を及ぼす。ネットワーク化された組織や個人を前にして、国家や官僚機構が崩れ去る世界が現出する。

 こうした既成の権威を崩壊させて、世界を一体化し統治しようとするこの構図こそ、ワンワールド主義者たちの最も好むものと言える。

 会期後半の2月3日には、「ウィンテル」の両雄、ビル・ゲイツ会長とアンドリュー・グローブ社長がダボス入りした。

 討議に参加した二人は、パソコンとインターネットをはじめとするネットワークの活用の巧拙によって、競争力の差が生まれると指摘。そして、その競争力においては、アメリカの優位が続くと宣言し、ヨーロッパや日本の遅れを明らかにした。

 また今回の会議において、世界経済フォーラムは、各国企業や政府をビデオ会議システムで結ぶネットワークづくりに乗り出すことを決定した。これは、企業間や企業内の業務用通信に加え、特定のテーマでの議論の場所を提供するものである。政治面でも、一国の考えにとらわれがちな各国の議会を結ぶ機能などを持たせる計画で、シュバーブ・世界経済フォーラム理事長は、アナン国連事務総長やギングリッチ米下院議長に協力を要請した。

 このダボス会議においては、ワンワールドの計画が着々と進行しているのを見ることができる。


●議題に上った経済危機

 しかしこれは表向きの議題である。

 今回のダボス会議の本当の議題は、日本における金融危機とヨーロッパ連合(EU)の通貨統合問題だったのである。そして、「わたしたちは脆弱な金融システムについて心配すべきか」というテーマを元に、世界的な経済危機が論じられた。各国の出席者からは、緊迫した経済危機を憂慮した発言が続出したという。

 これは極めて異常な事態だと言える。

 というのは、今回のダボス会議は27回目に当たるが、ここ数年の会議では「グローバリゼーションをいかに進めるか」「いかに規制緩和を行い、各国の国営企業を民営化していくか」ということがクローズアップされ、様々な危機的状況もグローバリゼーションのために必要なプロセスとして歓迎されてきたからである。

 確かに、93年から96年までの間、世界大恐慌以来最大の金融危機が進行する中で、ダボス会議は開かれてきた。ドイツでは金属産業が崩壊し、スペインではバネスト銀行が倒産寸前になり、日本では銀行・株式市場がともに大きな問題を抱えていた。そして、ベアリングス社は倒産、カリフォルニアのオレンジ・カウンティ銀行も倒産、またフランスでは、厳しいマーストリヒト条約に反対してデモが続発した。

 最も典型的な事件は、95年に起きたメキシコのペソ危機だろう。このペソ危機は、95年2月、まさにダボス会議が開かれている最中に起き、全世界での換金騒ぎにつながる恐れが出たのである。しかし、このような時にも、ローレンス・サマーズ米財務副長官を含む会議出席者は、危機は大きなものでなく広がらないと言明した。事実、その2日後、アメリカ政府はメキシコの通貨安定に向けて400億ドルの記録的援助を発表し、問題は解決したのである。

 どんな危機的状況が起きようと、それは差し迫った崩壊の前兆とは見なされず、平然と対応してきたダボス会議。しかし、今回だけは、経済危機という言葉が明確に打ち出されたのである。それは、「世界経済が成長している」「インフレが低く抑えられている」「世界の主要株式市場が高値をつけている」といった、わたしたちがマスコミを通じてよく耳にする情報とは、全く正反対の現状認識を示している。

 世界経済危機――、そこで名指しされたのが他でもない日本なのである。


●世界経済ショックは日本から

「世界経済には、いつ大きなショックが来てもおかしくない。1997年は、そのようなショックがいつでも起こり得る年である。今のところ、最も緊急・切迫した問題を抱えているのは日本である。」

 本会議最初の演説で、国際経済研究所の所長であるフレッド・バーグステンは、このような警告を発した。

 続けて、バーグステンは日本の金融システムの危機について概説した。日本政府は経済成長を再活性化するため、5000億ドルに上る経済支援策を行った。利率はゼロに等しく、貿易黒字も巨大であった。「しかし」とバーグステンは強調する。

それでも日本経済はこの五年間、先進世界、あるいは東アジアにおいても最も脆弱であった。世界で最も成長を遂げている東アジア地域に位置しているにもかかわらずである。日本経済は根本的な所でおかしくなっている。その主な原因は金融システムの弱さであり、これによって経済が足を引っ張られているのである。」

 そして、橋本政権は経済が脆弱であるにもかかわらず、ヨーロッパ各国政府、そしてアメリカ共和党の路線に追随し、予算均衡のために厳しい予算削減を行おうとしている。しかし、バーグステンの警告によれば、これは経済をさらに停滞させ、極度に弱体化させ、次には「日本を見放す」パニックを引き起こしかねない。つまり、投資家たちが利益を求めて、日本市場から外国市場へ大量に移っていくパニックを引き起こし得るというのである。

 さらに、日本の貿易黒字の水準から考えて現在の円の対ドル相場は適正ではないとし、バーグステンは言う。

「円は1995年4月から53パーセントも下落している。ここでパニックが起きれば、日本の銀行や個人投資家は、今でも世界中に大量に持っている株式を換金しようとするだろう。そうなれば日本市場だけでなく、外国市場にも厳しい影響が出る。」

 そして、「こうした世界経済への大きな打撃を回避するためには、2月8日にベルリンで開かれる主要七カ国蔵相・中央銀行総裁会議(G7)の場で、円安定化パッケージを作ることが不可欠だ」として、次のように結んだ。

日本は増税を延期すべきだ。これを約束すれば、G7の協調介入で円安定化ができる。」

 これにたたみかけて、ドイツ・ドレスナー銀行のエルンスト・リップ取締役は警告する。

「日本が金利引き上げに動けば世界の資本の流れが変わり、バブル崩壊時と同じような大ショックが世界に走りかねない。」

 確かに、日本が米国財務省証券を売ったり、公定歩合を上げたりすれば、ニューヨーク・ダウは暴落する。現在、世界の金融経済が、このような危うい状態にあることは認識すべきだろう。

 こうした彼らの容赦ない警告は、明らかに日本の“古びた”経済システムを攻撃するものであった。そして、彼らは「金融システムを“新しく”しなければならない」と持ちかけ、日本版ビッグバンを奨励し、日本の個人資産1200兆円を我がものにしようとしているのである。


●EUの通貨統合、そして……

 日本経済の問題に引き続き、現在のヨーロッパ経済通貨同盟(EMU)の状態、そしてEUにおいて高まる一方の失業率、これらもまた世界の経済危機を引き起こし得る第二の問題として扱われた。

 EMUに関して、マーストリヒト条約の本文は、97年に各国は「参入基準」を満たせるかどうかを決定しなくてはならないと明言している。その参入基準は、

というものである。
 96年12月の時点で、この二つの基準を両方とも満たしているのはルクセンブルクだけであった。96年のドイツの国家予算の赤字は3パーセントを超えており、フランス、そして他のEU各国についても同様であった。それゆえ、新しいヨーロッパに参入する資格を得るため、各国は予算をさらに切り詰めねばならなくなったのである。

 過去2年間、こうした財政切り詰め、そしてデフレ政策によって、EU内での失業率は高まり、失業者数は常に2000万人を超すまでになっている。

 96年12月にダブリンで開かれたEUサミットでは、新しいヨーロッパに関して、フランスの意見とドイツの意見が、初めて大きく食い違うこととなった。そして、この食い違いは、今回のダボス会議でもはっきりと見られたのである。

 ドイツのキール世界経済学研究所のホースト・シーベルト所長は述べている。

 ジーベルトのこの悲観的な見方は、ドイツで最も影響力を持っている銀行家の一人、ドイツ銀行のウルリヒ・カルテリエーリ代表取締役の言葉によっても裏付けられた。

 カルテリエーリは最近まで通貨統合の熱心な推進者だったが、今年の会議では「EMU計画について大きな金融危機が起こる恐れがある。今年こそ、私たちはリーダーシップと未来構想を提示する必要がある」と述べた。この後で彼は次のように指摘した。

 このように、EUの通貨統合はぎくしゃくした状態で進んでいる。もしEMUを強引に進めようとするならば、ヨーロッパ各国はより多くの失業者を抱えることになり、経済はますます緊縮化の方向に進むだろう。これはまた、多くの政治問題を引き起こすことにもなる。

 こうした不穏な空気を内在しながらも、EUの通貨統合は進んでいくのである。


 様々な世界情勢の潮流を形成してきたダボス会議――。今回の大きな議題の一つであるEUの通貨統合に関しては、97年6月のアムステルダム条約によって前進を見た。

 残るは、日本の金融危機である。日本発の世界経済危機が果たして起きるのかどうか、わたしたちは注意を怠ってはならないだろう。


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(C)AUM Shinrikyo Public Relations Department, 1997